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光も影も


by kyoko_de_la_paz
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言葉とは

『ベッジ・パードン』
作・演出 三谷幸喜
出演   野村萬斎 深津絵里 大泉洋 浅井健治 浅野和之
世田谷パブリックシアター

物語は、ロンドン留学時代の金之助(後の漱石)の下宿で展開される。
舞台の神髄とも言えるような、セット、音楽、役者の配置。
笑いが、様々な感情へと繋がるのは、もうさすが三谷幸喜として言いようがないのです。



“さすが”ではあるけれども、意外でもある作品でした。
ラブストーリーなのです。私としては、その前に“ファンタジー”という言葉をつけたくなるような気もする。
それは、深津ちゃんの演じるアニーの存在感なのかもしれない。金之助との恋、夢を語る姿、悲しい結末をわかっているからこそ、明るい役なのに、どこか儚く悲しく見えてしまうからかな。金之助と同じように、心を引っ張られてしまう可愛らしさ。hの音のない台詞、説得力ありました。さすが、深津絵里。
萬斎さんの金之助、素晴らしい。英語が話せない様子を、日本語の台詞で表現するって、凄い。三谷さん、書くだけで安心でしょう。立ち姿も、相変わらず美しい。そして、あの声。笑いのツボを外さない芝居。三谷さん、最高のキャスティングです。
大泉さんのための役。当て書きをする三谷さんなので、もうそりゃ、大泉洋なわけです。笑わせて笑わせて、二幕の後半、金之助に感情をぶつけるところは、観ていてぐーっと引き込まれました。小さな芝居も、くすっと笑わせるし。いちいち、靴を履く所がなぜか笑える。初めて舞台で観たのに、そんな気がしないのは、なんでしょうね?
浅井くんは、知らない役者さんでしたが、舞台の上で、生き生きしてる人だった。これだけの芸達者な中で、渡り合ってるのが凄いと思う。ミュージカルの人なんですね。ロンド橋、素晴らしい歌唱でした。
そして、浅野さん。役者としての身体能力がハンパない。一人で、11役。「イギリス人が全員同じ顔に見える」金之助の心情を体現した役。ビクトリア女王から犬のミスタージャックまでって、凄過ぎでした。舞台の上のユーモアもスリルも引き受ける、その芝居の深さと軽やかさは、ただただ感動。

言葉がわからないから、伝わらないことってある。私も、母語で仕事してないから、毎日がそう。でも、だからこそ、一生懸命言葉にして、伝えようとする。日本語だったら、一言で済むことを伝えるために、英語だったら、文章一段落くらいになったりする。それは、違う言葉なんだから、当たり前のことだと私は思う。伝えたい、わかって欲しいと思うから、言葉を紡ぐ。
じゃあ、同じ言葉を話す人間同士は?伝わると思って、伝えることに手を抜いていだろうか?言葉を軽んじては、いないだろうか?
金之助がイギリスでぶつかった言葉の壁、日本に残した妻との関係の壁、でもアニーとの関係には、言葉が壁じゃなくて、橋になった。つまりは、言葉とどう向き合い、どう伝えるかなのだと思う。舞台の上から、そんな疑問を投げられたような気がする。人と人が、わかり合うって難しい。三谷さんからの疑問、ずっしり胸に残りました。残りの大感謝祭も楽しみにしています。
by kyoko_de_la_paz | 2011-06-21 23:36 | play